マーケティングを学ぼう
会社では、部長待遇の役職に就いています(つまり「部長」という職位ではありませんが、経営会議メンバーで決裁権をもっています)。昨年度は社内で情報セキュリティのテストを毎月の後半に実施して、従業員のリテラシー・アップを図ってきました。これはこれで、昨年度の反省を予定しています。
さて、今日は会社で役員と話をしていて、本年度は他の部署、特に営業やマーケティングの人たちへ、基本的な ITリテラシーを教えて欲しいと依頼されました。実際、「IT企業」なり「インターネット事業」を謳っている会社でも、営業や総務といった部署の人材は、インターネット通信やウェブコンテンツの仕組みを殆ど理解していません。お客さんには「Facebook の活用法」とか「Google Analytics を使った有効な分析方法」などと言っていても、Facebook や Google という企業がどのようにサービスを構築・提供しているのかを理解している人は殆どいないと言ってよいでしょう。
そういうことでは、本当に困ります。もちろん、営業系社員や管理系社員に、インターネット通信を正確に理解するための厳密で基礎的な離散数学(確率論、グラフ理論、トラヒック理論、整数論、組み合わせ論、ブール代数、証明論、記号論理学などなど)をいきなり教えるのは無理ですし、その必要もありません。しかし、それらを分かった上で、Facebook や Google が何をしているのかを解説できた方が、首尾一貫した説明や正確な説明ができます。初心者向けの本を通読したていどのアドバンテージで、まだ読んでいない人に向かって何かを教えるなんてことは、実はやってはいけないことです。しかし、いままさに会社の多くの営業系社員は、自分達の売ろうとしているオンラインサービスについて、お客さんよりも先に使って経験しているというていどのアドバンテージで、まるで当社のサービスどころかインターネットの専門家であるかのように受け答えしたり、それどころか多くの人を相手にセミナーを開いたりしています。これでは、助成金を目当てにして地方の自治体へ馬鹿げた提案や助言をしているイカサマ・コンサルタントと同じレベルです。事業者として誠実とは言えません。
ということで、少なくともうちの会社では圧倒的な知識と経験とスキルをもっている(笑)、僕が教育プログラムを考えて、まず営業系の社員を相手に実施することにしています。
でも、僕も全てを十分に知っているわけではありません。また、彼らはプログラマではありませんし、プログラマと同じことを同じレベルで知る必要もないので、彼らの職能に応じた適切な内容と粒度の知識を得てもらい、実際に業務に活かせないと意味がありません。彼らは学者になるわけでもないので、知識として体系立っていて不整合がなければ満足するというわけではないからです。そこで、今日の帰りに会社の近くの大型書店へ立ち寄って、特に営業やマーケティングの人たちに関係がありそうな「ITリテラシー」の教材を眺めてきました。
営業やマーケティングという職種の場合、必要とされる知識は大きな分類で言うと、
・マーケティング
・ネットワーク通信
・ウェブコンテンツ制作
・統計
・消費者行動論
・経営学
などとなります。マーケティングを担当する従業員にマーケティングを教えるというのは、おかしな話に思えますが、僕ら役職者や経営陣から見ると、多くのマーケティング担当者がやっていることの大半は、広告とフィードバック分析でしかありません。つまり、体系的にマーケティングというものを学んだことがないわけです。特にインターネット事業に特化した会社のマーケティング担当者というのは、SEO やリスティング広告といった、広告の中でも更に狭い領域の知識しかなく、またフィードバック分析においてもログ解析という非常に狭い意味の分析しかやっていないわけです。これでは、自分達が使っている Google Analytics などのツールの仕様変更とか、新しい広告技術とかに振り回されがちなのも当然です。つまり、プロであるはずの営業系社員こそが、オンラインサービスやテクノロジーの「ユーザ」として右往左往していることになります。これは、上記に挙げたような基本的な原理原則あるいは仕組みの知識がないからです。
書店では、IT リテラシーに関わる本は、だいたい次のような棚に置いてあります。
・コンピュータサイエンスや数学の棚
・ウェブ制作や開発の棚
・マーケティングや広告の棚
・経営学やマネジメントの棚
この中で、営業系の社員にとって最も重要なのは、もちろんマーケティングや広告の棚に置いてある本です。そして、いわゆる「コンテンツ・マーケティング」や「オンライン広告」だけに特化した本は、立ち読みていどで十分です。あるいは、こうした話題を扱っているサイトの記事を読めばいいでしょう。なぜなら、「マーケティング」という考え方はインターネットなどよりも古くからあって、その頃から熟成されてきた議論や理屈の古典とも言える本は、広告やブランディングの方法が新聞の折込チラシだろうと Flash バナーだろうと同じように通用する筈の内容をもっているからです。そうでなければ、マーケティングの古典などと言われていても、しょせんは IT と関係のない「地べた営業」だけにしか通用しない、ただの経験談の積み重ねにすぎないという話になるでしょう。そんなものを学ぶ必要はありません。
ですから、マーケティングで言えばコトラーの本が有名ですが、別にインターネット広告について詳しく書かれていなくてもいいのです。例えばコトラーの『マーケティング原理』は第9版の翻訳が最新ですが、本質的な議論が時代を超えて一貫して妥当しているなら、この本の第6版や第7版を古本屋で安く手に入れて読んでも十分に価値はあります。でも、Google Analytics の使い方だの活用法、なんて本は、Google Analytics の仕様が変われば、たちどころに無意味な紙屑になります。そういう小手先の情報を負うのも実務的なタスクにはなりますが、そうした使い捨ての情報は、誰もが学んでおくべき、職務の基本的な知識ではありません。
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